
こんにちは。
北摂ライフサポート動物病院 院長の久保です。
今回は、子猫の頃から若年性歯肉炎がみられた猫の歯周病治療の経過について解説します。
猫の歯周病は決して珍しい病気ではありません。
「口がにおう」「ごはんを食べづらそうにしている」といった症状の背景に、猫の口内炎や歯周炎が隠れていることがあります。
歯の汚れについて
歯の汚れは大きく二種類に分けられます。
歯垢(プラーク):
細菌の塊。
歯磨きで落とすことができます。
歯石:
歯垢が唾液中のミネラル分と結合し、固まったもの。
表面がザラザラしており、さらに細菌が付着しやすい「細菌の温床」です。
歯磨きでは絶対に落ちず、病院での処置が必要となります。
猫の歯肉炎とは?歯周炎・口内炎との違い
歯肉炎(gingivitis)とは、歯垢(プラーク)に対する炎症が歯ぐきに限局している状態です。
この段階では、歯を支える骨(歯槽骨)の破壊は起こっていません。
しかし炎症が持続すると、
- 歯周ポケット形成
- 歯槽骨吸収
- 歯の動揺
が生じ、歯周炎(periodontitis)へ進行します。
さらに一部の猫では炎症が口腔粘膜全体へ広がり、 猫慢性歯肉口内炎(FCGS)へ進展することがあります。
猫の若年性歯肉炎の原因
⒈歯垢に対する過剰な免疫反応
若齢猫では、歯垢の量に比べて炎症が強く出るケースがあります。
これはプラーク細菌に対する過剰な免疫反応が関与していると考えられており、
免疫成熟過程のアンバランスにより、炎症が過度に増強される可能性が報告されています。
⒉ウイルス感染との関連
若年性歯肉炎や慢性口内炎では、以下のウイルスの関与が報告されています。
- 猫カリシウイルス(Feline calicivirus)
- 猫免疫不全ウイルス(FIV)
- 猫白血病ウイルス(FeLV)
特にカリシウイルスは慢性歯肉口内炎との関連が強く示唆されています。
参考文献:
猫の慢性歯肉口内炎:臨床管理における最新の概念:
▶︎
Feline chronic gingivostomatitis: current concepts in clinical management
今回の症例:猫の歯周病治療の流れ
⒈処置前の状態

今回の症例では定期的にスケーリングや抜歯を実施してきているため、歯石はそこまでひどくありませんでしたが、
- フードを食べにくそうにする
- 前肢で口元を気にする
- 口をくちゃくちゃする
といった症状が見られており、左下顎の裂肉歯と呼ばれる大きな奥歯の部分にも動揺が認められたため、
歯周炎と判断し、麻酔下でのスケーリングと抜歯を計画しました。
⒉スケーリング(歯石除去)

超音波スケーラーを用いて、歯の表面および歯周ポケット内側の歯石を除去します。
歯石は歯磨きでは落とすことができないため、動物病院での処置が必要です。
⒊動揺歯の抜歯
裂肉歯は歯根が複数ある多根歯で、通常は分割抜歯が必要になることもあります。
今回の症例では炎症が強く、歯根があまり歯茎に付着していなかったため、分割抜歯を実施することなく比較的容易に抜歯することができました。

抜歯後、歯肉に生じた穴が大きかったため、2糸縫合を実施しました。

⒋ポリッシング(研磨)・薬剤塗布
専用ブラシと研磨剤で歯の表面を磨き上げます。
滑らかに仕上げることで次の汚れが付きにくくなります。
当院では歯石除去から仕上げのポリッシングまで1台で行える歯科ユニットを導入しています。
最後は炎症を抑えるために、
- 歯周ポケット内
- 炎症の強い歯肉
- 抜歯部位
に抗生剤を含む薬剤を塗布して終了です。

処置後の様子
処置後2週間後の再診では、驚くほど歯肉の赤み軽減が確認できました。
特に左上顎犬歯では歯肉ポケットが深く炎症も強い状態だったので、処置後の改善につながっていることが確認できてよかったです。


左側の歯も処置後に歯肉の赤みがひいており、歯の状態が保てています。
猫の歯周病治療は抜歯が必要?
「抜歯はかわいそう」と感じる飼い主さまも少なくありません。
しかし、強い歯周炎の原因となっている歯や、ぐらついて痛みを伴う歯は、生活の質(QOL)を大きく低下させます。
犬や猫の場合、保存が難しい歯は抜歯を選択することが一般的です。
抜歯後は痛みが改善し、食欲が回復するケースも多くみられます。
今回の症例でも処置前に見られていた症状が改善し、
処置後にはスムーズにごはんを食べ、硬いおやつも食べれるようになりました。
歯周病による影響
犬や猫の歯周病は、口臭や歯石だけの問題ではありません。
歯周病は慢性的な細菌感染による炎症性疾患であり、全身に影響を及ぼす可能性が報告されています。
歯周ポケット内で増殖した細菌や炎症性サイトカイン(IL-1β、IL-6、TNF-αなど)が血流に乗ることで、心臓や腎臓などの臓器へ影響する可能性があります。
心臓への影響
ヒトでは、歯周病由来の細菌DNAが心臓弁や動脈の炎症部位から検出された研究があり、
犬や猫では同様の強いエビデンスはまだ十分ではありませんが、慢性的な炎症が全身臓器に影響する可能性が示唆されています。
腎臓への影響
犬では腎臓の糸球体病変と歯周病との関連が報告されており、猫でも慢性腎臓病の進行因子となる可能性が示唆されています。歯周病予防のためにできること
上述のように、歯周病菌や歯周炎による炎症による全身への影響を踏まえ、近年ペットの予防歯科における関心が高まっており、
当院でも歯科治療に力をいれています。
- 日常的な歯磨き習慣
- 定期的な口腔チェック
- 必要に応じた医療介入(スケーリングや抜歯)
が重要となりますので、以下のような症状が見られる場合には、早めにご相談ください。
歯科処置についてお口のにおい・見た目の変化
口臭が強くなった
歯が黄色・茶色に汚れている
歯ぐきが赤い、腫れている
歯ぐきから血が出る
食事・行動の変化
食べるのを嫌がる、片側で噛む
硬いものを食べなくなった
ごはんを落とす、食べるのが遅くなった
口を触られるのを嫌がる
痛みや異常なサイン
よだれが増えた
口をくちゃくちゃする
顔や口元を床にこすりつける
目の下が腫れる、膿が出る